そして二日後……
昨日は一日中バイトでミドリさんの所に行けなかったが、
今日は試験休みの最後の日なので、昼でバイトを終えてミドリさんの家に向かっていた。

{おい シンイチ……後ろからアヤの車がついて来ているぞ}
{{ええっ?}}
{こら 振り向くな……何も無かったかのように歩くんだ……}
{{どうしてアヤさんが……もしかして……}}
{どうやらズボンの入れ換えをしたのはアヤだったのかもな……
それに一昨日のショッキングピンクのエレカ……怪しまれたんだな……}
{{……一体どうすれば……どうすればいいんだ}}


裏庭セカンドジェネレーション

CHAPTER 19B

第19話【蒼い髪の少女】Bパート


{{兄さん……何かいい方法は無いかな}}

{これはおまえが撒いた種だ 自分で刈り取れ}
深読みしちゃイヤン(笑)<連日の残業代の無い残業で壊れとるな
{{あっ兄さん ちょっと待ってよ}}
兄さんの思念はもう届かなかった……

「ここから家まで歩いて帰ればどうだろう……いや、超遠まわりだ……ダメだ……」
僕は歩きながらこの場を逃れる為に想像を巡らせていた。

こうしている間も、恐らくアヤさんのエレカは付かず離れずの距離で、
つけて来ているに違いない……これ以上アヤさんを騙すのは心苦しいけど、
アヤさんを悲しませたくも無い…………僕の心も騙せないこんな詭弁じゃだめだ……
考えろ……考えるんだ 渚シンイチ……
ちょっと東京大学物語入ってるかも

「ん?」
僕は今歩いてる道路から少し外れた所に手縄山への狭い道があるのを思い出した。
「近道通って帰ったと言う事にすれば……それにこの道ならエレカは入ってこれない……」
僕は次の信号で道路を渡る事に決め、後ろから感じるプレッシャーと戦いながら、
平静を装って歩いていた。
おまえはシャアかアムロか?

旧型の歩行者用信号だったので、
昔懐かしい歩行開始の音楽が鳴り響き僕は歩行を開始した。

BGM

      通りゃんせ 通りゃんせ
      此処は何処の細道じゃ
      天神様の細道じゃ
      ちいっと通して下しゃんせ
      御用のない者通しゃせぬ
      この子の七つのお祝いに
      お札を納めに参ります

      行きはよいよい 帰りは恐い
      恐いながらも 通りゃんせ 通りゃんせ

「そういえば……昔 誰かに抱かれて……夜道を急いだ事があったような……
優しく僕を包んでくれて……とても安心出来た……あれは……」 記憶の奥底に沈んだまま
だった記憶が浮かび上がって来るのを感じ、僕は信号の途中で足を止めた。
目眩いのようなものを感じた時、僕は白昼夢のように何かのビジョンを見た。



たったったったっ

「はぁはぁ……」

薄暗い洞窟の中……
まだ幼い子供を腕に抱いて息を切らせながらも
光に向かってひた走る蒼い髪の女性……

迷路のような洞窟の中、ただ出口に向かって……

ようやく光輝く出口に近づいた時、
蒼い髪の女性は数年ぶりに光を見たのか、
眩しそうに目を閉じて立ち止まった……

ようやく目が慣れたのか瞼を開いた蒼い髪の女性の前に男がどこからともなく現れた

「どうするつもりだ……レイ!」
光を背にしているので顔は良く見えなかったが整った顔だちの男が口を開いた。

「この子が……こんなに熱を出して……だから病院に連れていかないと……」
蒼い髪の女性は子供を守るかのように抱いた手に力を込めた。

「よく出口まで辿りつけたね……道に迷った様子も無かったし……我が子の命を助けたい
が為の奇跡なのか……いや……もしかして……」

「……逃げるつもりなら……いつだって逃げられたわ……あなたにここに連れて来られた
時に道順は全て覚えていたから……」

「君の記憶力には敬意を表するよ……だけど ここから出す訳にはいかない……」

「この子が……シンイチが死んでもいいの?」

「その子が……僕の妹……ラピスの子供なら、そんな事では死ぬ筈が無い……
もし死ぬとしたら……それは君が僕に隠しごとをしていた時だ……」

「私を疑ってるの? 私は碇君に……抱かれた事なんて……」

「すまない……だが君をここから出したら……君がここに戻って来る訳無いじゃ無いか」

「君に出ていかれ……シンイチが大きくなり、シンイチの持つ力が大きくなって行くのと
同時に僕の力は無くなって行く……そうなると……僕は一人でこの洞窟で……ただの人間
として死んでしまうのが……辛い」

「……私は必ず戻って来るわ……それがあなたとの約束だから……」

「……わかった」

「金が必要ならどこかの銀行に立ち寄れ……引き出し機の前に立てば私がなんとかする
それと……シンイチの戸籍は私がすぐに取っておく……名前は……」

「渚……シンイチね」
「ありがとう レイ」

男は姿を消し、蒼い髪の女性は軽く頭を下げて洞窟から飛び出した。


そして、まるでビデオを早送りするかのように、蒼い髪の女性が病院に飛び込み、
幼児の治療をして貰い その日は病院のベッドで泊まり、翌日 熱を覚ました幼児を
連れて、電車に乗り どこかに向かうビジョンが流れた。

「やっと……見つけた」
蒼い髪の女性は碇家の前で表札を見て呟いた。

家の様子は見慣れた碇家だったが、周りの家は今とは少し違っていた……

「はやい はやい あやちゃんカー」
家の前で縁石に腰をかけて車のおもちゃで遊んでいる幼女に気づいたのか、
蒼い髪の女性は幼児を抱いたまま跪いた。



「(碇君の顔だちそっくり……)もしかして、おとうさんの名前はシンジって言わない?」
蒼い髪の女性は涙をこらえながら幼女の頭を撫でて問いかけた。

「うん そうだよ どうして知ってるの? おちゃくさん?」

「ええそうよ おとうさんかおかあさんいる?」

「おかあさんならいるよ いらっちゃいませ」
幼女がたどたどしい手でドアを開け、蒼い髪の女性を家に招きいれた

ビジョンは再び少し早送りされて、室内のシーンに切り替わった

びえぇぇぇー

「あら、ミライが泣いてるのかな」
アスカはベビーベッドを覗き込んだ。

「シンイチのようね」
綾波はベビーベッドに寝かされていた幼児を取り出した。

「そ、その子は?」

「渚シンイチ君だそうよ ミライと同じで、六ヶ月だそうよ」

「お腹が減ってるみたいね・・」

「あ、あなた! 今日から、シンイチ君を預かる事になったから」
「えっ?」

「この子・・洞窟の中しか知らないで育つの・・かわいそうだから・・」
蒼い髪の女性が胸をはだけて乳を飲ませながら言った。



「はっ」 僕は信号が赤に変わりかけ、通りゃんせのメロディが消えたので、僕は我に帰り
慌てて信号を渡った。

ほんの数十秒しか経ってない筈だったのに、まるで夢でも見ていたかのように、
とても長いビジョンを僕は見ていた。

僕は歩きながら兄さんに問いかけた。

{{今のビジョンはもしかして、兄さんの記憶?}}

{そうだ……あの頃にはもう身体から離れる事が出来るようになってたからな
あの音楽でつい思い出してしまったんだよ……}

{{そうだったのか…………}}
僕は長年謎に思っていた事が解り、少し胸がすっきりしていた。

{いいから歩け アヤに不審がられるぞ」

{{うん……}}


車の行き来が多い道路から分け入った狭い道は、ここ第三新東京市として、
遷都される前からあったと言う建物群が無秩序に建てられており、
手縄山を超えた自分達の住むエリアとは一線をかくしていた。

「ついでだから手縄山を超えて帰ろうかな……」

神社に参拝する人が使う狭い山道を僕は登っていった。
この道が山頂に繋がっている事は知ってはいたが、いつも僕たちの地区の方にある、
正門から登るので、この道を登るのは初めてだった。

「ふぅ……」
シズカちゃんの住む家と本堂の後ろに出た僕は帰る為に公園の方に向かった。

「あれから……たった一年しか経って無いのに……まるで……」
僕は昔 蒼き髪の少女と共に異形のものと戦った公園に佇んでいた。


「だけど……あの時の蒼い髪の少女より年が上だったような……」

「僕の母親……綾波レイとあの蒼い髪の少女は同一人物なのかな……
けど、だとしたらおかしすぎるよ……一体どういう事なんだ……」

僕は公園のベンチに座って頭を抱えて考えていた。

一陣の風が吹いた時、僕は背後に気配を感じて振り向いた。

「探したわ……渚シンイチ……私が守らなければいけないヒト」
あの時の姿のまま、蒼い髪の少女が僕を見つめていた。

「君は……君は僕の何なんだ!」
僕は胸の中のわだかまりを、突然現れた蒼い髪の少女にぶつけた。

「私はあなたを守る為に作られた存在……ただそれだけ……」
蒼い髪の少女のその答えは僕を更なる混乱に追い込むだけだった。




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どうもありがとうございました!


第19話Bパート 終わり

第19話Cパート に続く!



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